東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)134号 判決
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〔判決理由〕二 原告は、本件審決が第二引用例の技術を第一引用例の技術と関連づけて本願発明の進歩性を否定したことは違法である旨主張するが、この主張は、理由がないものというほかはない。すなわち、第一引用例の特許公報によれば、本願出願前公知の刊行物である……第一引用例には原告主張のとおりの「絶縁層を持つ珪素鋼薄板の製造方法」に関する技術が開示されていることは明らかであるが、その技術内容を本願発明との対比において考察すると、右技術内容は、結局、本件審決認定のとおり、「金属板材料の表面に水に不溶性の金属の水酸化物を被覆し、次いで、この被膜を強固な絶縁被膜に変えるべくこれを熱処理する磁性材料の製法」に他ならないことまた明らかなところであり、前記第一引用例の記載を参酌しつつこれを当事者間に争いのない本願発明の要旨(特許請求の範囲記載のとおり)と比較すると、本願発明が、金属水酸化物被膜の形成手段として、金属の水溶性塩の水溶液を電解するという技術を採用している点においてのみ、前記第一引用例に開示されたところと相違することを認めるに十分であり、これを左右すべき明確な証拠は一つとして存しない。原告は、この点について、第一引用例と本願発明とは被処理金属の種類及び予備処理において相違する旨主張する。しかし、本願発明においては被処理金属の種類を特に限定していないことは明らかであるのみならず、その被処理金属として珪素鋼を使用する場合において第一引用例と共通であるから、被処理金属の種類の相違を云為することは妥当ではない。
また、予備処理の点について考察するに、前判示のとおり、第一引用例が薄板材料の珪素をその表面上並びに表面の近くにおいて無水珪酸を作るように酸化するを可とする処理(薄板の表面をマグネシヤを含む物質で被覆する前の熱処理で、原告のいう予備処理)を要件としているに対し、本願が金属の水溶性塩の水溶液の電解による金属板材料上への前記金属水酸化物の形成沈積前叙上のような予備的処理を行なうことを要件としていないことは原告主張のとおりであるが、前記第一引用例、とくにその発明の詳細な説明中の「勿論幅が数吋を越えない如き小さな(薄板の)場合には閉鎖焼鈍処理に於いて先づマグネシヤを焼成し然る後温度を充分上げて水蒸気を此の温度の雰囲気中に導入することにより表面珪素を無水珪酸に酸化することは可能である。」との記載によると、第一引用例の方法においても、場合によつては、いわゆる予備処理を省略することのありうるとされていることが明らかであるから、いわゆる予備処理の省略の点を第一引用例との特別な相違点とはなしえないというべきである。したがつて、本件審決の叙上のとおりの認定は、この点についての説明が不十分であるとのそしりをまぬがれないとしても、判断を誤つたものであるとすることはできない。
しかして、ケミカルアブストラクツ第五二巻九八一九頁(第二引用例)によれば、金属の水溶性塩の水溶液を電解して金属材料上に水に不溶性の水酸化物を生成することは本願出願前公知であつたことが認められるから、本願発明は、結局、第一引用例及び第二引用例に開示された技術から、当業者の容易に想到しうる程度のものであると認めるを相当とし、この認定を左右するに足る証拠資料はない。この点に関し、原告は、第二引用例に開示された技術は本願発明ないし第一引用例の技術とこの属する技術分野を異にするから、当業者といえども、第二引用例から本願発明を想到しうるものとするのは誤りである旨主張するが、本願発明における磁性材料がきわめて薄く、しかも高い絶縁性をもつことを要求されるものであるにしても、すでに判示したように、第一引用例が最終熱処理により絶縁被膜を形成する前段階として薄板材料表面にマグネシヤを含む物質を懸濁液または乳状液として附着させる処理をすることを開示しており、他方、金属の水溶性塩の水溶液を電解して金属材料上に水に不溶の水酸化物を生成する方法が公知である上、第一引用例はマグネシヤ含有物質の被着手段としてそれが概括的に説明している方法以外の方法は有利でないことが解つたとしながらも、なお叙上の方法は「最大の経済性と便利性とを以て満足的な結果を得るため特に使用された一方法に関するに過ぎずして他の方法も本発明要旨を変更しない範囲に於いて使用し得るは勿論である」としている以上、とくに反対の確証のない本件にあつては、絶縁被膜に変える熱処理をする前段階として金属水酸化物を薄板材料に附着させる手段として第一引用例の説明する方法に代えて金属の水溶性塩の水溶液を電解して金属材料上に水に不溶の水酸化物を生成する方法を用いることは当業者において容易に想到しうるものであるとした本件審決の判断を違法ということはできない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。(服部高顕 三宅正雄 石沢健)